仮想通貨SF 連載小説 『Decentralized Kingdom』 第1章 1 /著:小鈴危一

くりぷと(@CryptoBloger)です。以前募集させていただいた仮想通貨のSF小説を連載スタートします。 (沢山のご応募、ありがとうございました!不採用となってしまった方はごめんなさい。)

 

著者は小鈴危一氏。20年後の日本を舞台とした作品、「Decentralized Kingdom」をお届けします。

 

追記:OCRYBITさんの集計で、デイリー1位となりました!ありがとうございます。

 


1.賢い契約

 

 

 《二〇三八年五月八日 午前七時四八分》
 《あなたは 五・八二七パーセント イケダハヤトです》
 

 

 起き掛けにスマホを覗き込んだ僕は目を見開いた。眠気が吹き飛ぶ。
 五・八二七パーセント?
 イケハヤ率が昨日から四割近くも下がっている! なんで?

 

 
 布団をふっ飛ばしながらベッドから立ち上がる。モーションを検知したアシスタントAIが、部屋のカーテンを開け、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。おはようございます、フジイさま。アナウンスが流れきる前に、机に飛びついてスマホをドックに叩きつける。
 

 

 大きく広がった泡状フォームディスプレイに手を突っ込み、“イケハヤ王国”のアプリアイコンを指で弾く。起動画面からマイページにアクセス。 直近のイベントログを確認して————僕はようやく思い至った。
「ああ……あれか」
 
 力なく、近くにあったオフィスチェアに腰を落とす。朝日を浴びながら、天井を仰いで溜息をついた。

 

 原因はたぶん、イーサリアムXプラットフォームでリリースしたゲームアプリの、開発チームを解散してしまったことだろう。

 

 あれを作ったきっかけは、ほんのノリだった。投稿記事のネタ探しに覗いたレトロカルチャーのコミュニティで、たまたま日本文化かぶれの外国人と知り合い、たまたまそいつが技術者で、なにかジャパナイズでシンプルかつナイスなゲームのアイデアはないかと訊かれ、僕が適当に答えたことが始まりだったのだ。紙相撲とかどう? と。
 

 

 別コミュニティで出会った他二人の仲間を加えてリリースした『GOD・SUMOU』は、予想外に大ウケした。あえて安っちい物理エンジンを採用したおかげで土俵上でのドラマが頻発し、各コミュニティで一気にバズったのだ。
 

 

 瞬間移動テレポートできるMAWASIやオーラを纏えるMAGE、目からビームを放てるフェイスペイントKUMADORIなど各種パワーアップアイテムは、マーケットで高騰した。いくら強い力士を育成してもプレイヤースキルと運次第で簡単に負けてしまうのだが、それがまたいいようだった。開発メンバーの評価バリューはどんどん上がっていった。
 
 不和のきっかけは、メンバーの一人がしたなんてことない提案だった。全員の自己情報プロフィールを公開しよう、という。
 

 

 今や“王国”の大部分は実名性のインターネットを推奨している。今まではなんとなく匿名でやってきたが、開発チームの全員の自己情報プロフィールを公開すれば評価をさらに上げることだってできた。市民としての評価が上がるほど、“王国”から受けられる恩恵も増える。イケダハヤトの王国などはその筆頭だ。僕は少し迷ったが、その提案に賛成した。
 メンバーの中で、反対したのは一人だけだった。最初に知り合ったあの外国人だ。
 

 

 彼は、インターネットは匿名であるべきだと言って聞かなかった。
 なんてことはない、彼は典型的な匿名主義者アノニマスだったのだ。
 彼とメンバーは衝突した。消極的賛成派だった僕は静観していたが、思えばもっと積極的に仲裁するべきだった。

 

 彼はチームを去った。コアエンジニアの彼が抜け、自然、チームは解散する流れとなった。
 結局、彼らとは一度もリアルで会うことはなかった。
「……まあ、仕方ないか」
 

 

 イーサリアムXのブロックチェーン上で動く分散型アプリケーション『GOD・SUMOU』は、僕らがいなくなってもプレイヤーがいる限り稼働し続ける。ソースコードは公開されているから、いずれ誰かが開発を引き継ぐだろう。イケハヤ率は下がったが、それでもリリース前よりは上だ。
 
 と、無理矢理自分を納得させようとしたが、うまくいかなかった。わかりやすい成功を目前にして逃した精神的ダメージは大きすぎる。
 

 

 マイページから、ウェブマガジンの寄稿記事や個人的にリリースしたサービスの評価状況を見て、もう一度溜息をつく。立ち上がってコーヒーメーカーに向かうも、豆切れのランプが点灯していた。そういえば買い置きもない。うんざりし、普段は控えているドローンの飲料配達サービスをスマホから申し込んだ。割高だが、こんな日くらいはいいだろう。
 窓を開け、サンダルをつっかけてベランダに出る。朝の匂いと、街の音を体が感じとる。

 

 
 北関東の五月の朝は、少し肌寒い。眼下に広がるのは白っぽい規格住宅やマンションが建ち並ぶ整然とした街並み。遠くに目をやれば広大な農地が広がっている。建物の屋根ばかりか、水田の上にまでソーラーシェアリングの太陽電池パネルが並び、街全体をモノクロのコントラストで彩っている。

 

 
 下を見やると、通学途中らしき学生たちと、タクシーを止める老人が目に入った。歩行補助用の電動アクチュエータをつけた老人が後部座席に乗り込み、無人の車両が静かに走り出す。女子学生二人組が宙空を指さして互いに笑い合う。耳につけた神経端末ナーヴデバイスの出力画面を共有シェアしているようだった。

 

 彼らもどこかの王国民で、きっと彼らなりの評価を稼いでいるのだろう。
低い空には配送ドローンたちが行き交う。所々に立つ送電用のアンテナは、今日も設置企業のロゴを小さく点滅させ続けている。
 僕はまた、意味もなく溜息をついた。

 

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>>>第1章-2

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