Decentralized Kingdom 第1章 13 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

『一郷ビルメンテナンス、宮野です』
「あ、もしもし。あの私、株式会社ヴィレッジ企画の佐藤と申します。特定建築物関係の管理でご相談したいんですが」
 
『ありがとうございます。見積もりのご依頼でしょうか?』
「いえ、まず具体的な管理方法についてお訊きしたいんです。給水タンクがある建物なんですが、水質検査って……」
 
 宮野氏と適当に会話を続け、社風を窺う。
 説明は丁寧。知識もあった。割と真面目な感じだが、慇懃というほどでもない。
 僕は無知なふりして相づちを打ちつつ、次第に態度を緩めていく。
 
「あー、なるほどですね! よくわかりました。たしか一郷ビルメンテナンスさんって、イケハヤ地域会議ビルの管理をされてるんですよね?」
『えー……そうですね。弊社で請け負ってます』
 宮野さんの声が少し固くなる。これは想定内。
 
「実は以前仕事でご一緒する機会がありまして、そのとき杉内さんという方に伺ったんです。管理委託を検討している建物があそこのビルと規模感近いので」
『ああ杉内さん。そうだったんですね』
 得心いったような宮野氏の声。
 
「もしかして、宮野さんがあちらのご担当を?」
『いえ、別の者ですが、私も何度かやり取りさせていただいてまして』
 
「ちなみに、なんという方が担当されてるかお訊きしても?」
『えーと、高橋という者が』
 
 やや強引だったが、必要な情報は聞けた。フォローしつつ、上司と契約について相談したいと言って電話を切る。
 
 さていよいよ次は地域会議だ。僕は役に入り込む。
『こちらイケダハヤト経済共同圏みらい平地域会議、沢田が承ります』
「恐れ入ります。一郷ビルメンテナンスの佐藤と申します。お世話になっております」
 
『はい、お世話になっております』
「施設管理担当の杉内様をお願いできますでしょうか?」
 
『少々お待ちください』
 程なくして通話相手が変わる。低い声の男性。
『お電話代わりました。杉内です』
「一郷ビルメンテナンスの佐藤と申します。お世話になっております」
 
『お世話になっております』
「実は、先月新規に導入した防虫防鼠ボットについてなのですが……」
『あれ、いつもの方じゃないんですね』
 声に疑念の響きがあった。鋭い人だ。
 
「申し訳ありません。本日高橋はお休みをいただいておりまして」
『この間はもう一人別の方が来てましたけど』
「田中は……すみませんまだちょっと一人で任せるのは厳しくてですね」
 
『ああ、新人さんでしたもんね』苦笑で返してくれた。いいぞ。
『それで、なにかあったんでしょうか』
「実はボットから遺伝子検出のアラートが来てまして」
 
『あら、ネズミいるんですか、ここ?』
「それが、異常値なんです。なので恐らくは誤検出かと。ちょっと点検と調整をしたいので、今日お伺いしても大丈夫ですか?」
 
『構いませんよ。何時頃来られます? こちらはいつでも』
「では、午後二時頃に」
 
『ネズミ取りも持ってきてくださいね。誤検出じゃなかったら大変ですから』
「あはは了解です。ああそれと、私今出先なので連絡はケータイの方にお願いします。番号を後ほど送りますね」
 
『わかりました。来られましたら裏で社員情報を提示してください。総務は五階ですので』
 
 電話を切って大きく息を吐くと、僕はクレに告げる。
「アポ取れたぞ。これで入れる」
「えええ……うそみたい」
 呆けたような声を返された。
 
「藤井さん、やっぱりすごい人だったんだ。天才詐欺師みたいな」
「褒めてんのかそれ? 似たようなものだけど」
「あんなゴミだけでほんとに信用されちゃうなんて」
「まあな」
 
 しかし、普通の人間はゴミ箱を漁ってゴミを集めたりしない。するはずがない、という思い込みが信用の源泉になる。
 
「あ、待って。でも社員情報どうするの? ないと入れないよ」
「それはこれで済む」
 
 僕はそう言って、スマホで田中氏の名刺に書かれた三次元CQRコードを読み込む。そして表示された顔写真付きの電子名刺をクレへ向ける。
 
「僕と君の分をこれと同じようなデザインで作っといてくれ。プロフィールとか適当でいいから」
「え、でも電子署名は? まさか今からこの会社の秘密鍵盗ってこいって言うつもり?」
 
「電子署名なんて中身空っぽでいいよ。どうせガワと顔写真確認して終わりだから」
「そ、そうなの? てきとー……せっかくの署名なのに」
 
「厳格にすると社員管理を電子化してない会社が入れないだろ。あといろいろ煩雑なんだよ。あ、電話では二時って言ったけど一時には行くから急いでね」
 
「……はいはーい。わかりましたぁ」
 生返事で作業を始めるクレ。それを尻目に、僕は大きく息を吐いて呟く。
「あとは服だな」

 

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