Decentralized Kingdom 第1章 14 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

 イケダハヤト経済共同圏みらい平地域会議ビルは、つくばエクスプレスみらい平駅から広がるオフィス街の、だいたい端っこにあった。

 トークンエコノミーの拡大と共に急速な発展を遂げたこの街で、七階建ての建物は小さく見える。だが一階に市街警備ドローンの基地、屋上に大型ドローンの発着場を備えたこのビルは、竣工から十二年経っても未だ先進的な佇まいを保っていた。

 僕とクレは、横手からその偉容を見据える。
 王国における地域会議とは、いわば村の寄り合いに近い。地方へ金が行かなくなり、公共事業が衰えた時期に、その地域に住む同じ王国民の有志たちが集まって始めたものだ。援助を得るため王国主導の形を取ってはいるが、目的は地域全体の生活水準向上にある。

 やっていることも地方行政そのものだ。上下水道や道路といった生活インフラの整備に、産業振興や教育、各種福祉事業など。初めはサービス行政がほとんどだったが、今では力の衰えた警察機構に代わり、市街警備サービスと契約して治安維持なども行っている。大きな公共事業を行う際には減価ゲゼルトークンを発行して購入を募るなど、地方債に近い仕組みまであった。

 そのリアルオフィスは、まあ役所に近い存在だ。今や嫌われるばかりのあそこや地方議会よりは、よほど信頼されているが。

 僕は時刻を確認する。午後一時四分。
「行くか」
 黒い作業服を着た僕の後ろを、同じ格好をしたクレがついてくる。

 建物横手にある裏口の自動ドアをくぐると、すぐに防弾ガラス製の扉に行き当たった。脇の壁には大きなモニターとカメラ。

《いらっしゃいませ! 身分証を拝見するよ!》
 モニターで特産品の巨峰を模した公式キャラクター、みらい一平が飛び跳ねながらそう喋った。認証用のAIだ。

 僕はスマホで偽造した電子名刺を表示し、カメラに向かってかざした。みらい一平が覗き込む仕草をして、程なくブドウに付いた雑な目鼻が笑顔を作る。

《株式会社一郷ビルメンテナンスの佐藤トシオさんだね! ようこそ!》
 金属音と共に扉のロックが解除され、防弾ガラスが速やかにスライドする。背後では同じようにして、クレがみらい一平の認証を突破していた。

 小走りで駆けてきたクレが僕の隣に並ぶ。
「ねえ藤井さん。あのAIはなにを見てたの? あっさり通っちゃったけど」

「過去に見た同じ会社の名刺デザインや、顔写真と本人の顔紋。あとは服装とかいろいろ。要するにそれっぽさだ」
「それっぽさって……」

「あのAI、たぶんかなり高度だぞ。電子名刺のデザインが違ったり、服装や持ち物がおかしいと上に報告がいったはずだ。あと約束の時間よりこれ以上早くても、だな」

「でも適当な電子署名も見抜けなかったよ?」
「見抜けなくてもいいんだよ。画一的な認証しかできないシステムより、こういう人間に近いAIの方がセキュリティ的には堅牢なんだ」
 まあそれはそれでつけいる隙があるのだけれど。

 正面のエレベーターへ乗り込む。そして議長室のある、六階のボタンを迷わず押す。

 リモートワーカーも多いため、地域会議のオフィスは実際には四,五,六階だけで、あとは市街警備の営業所やベンチャー向けのレンタルオフィスのようだ。

「杉内さんだっけ? のところには行かなくていいの?」
「行かない。ちょっと怖いから。少なくともみらい一平ほど簡単ではないだろうし」

 だからこそ一時間前に来た。訪問の確認をされる前に仕事を終えよう。
 エレベーターを降り、六階奥の議長室の前に辿り着く。一応周りを確認するが、元々人通りが少ないのか誰もいない。

 ドアを見て眉を顰める。電子錠だ。案の定ノブは回らない。不在だから無理もないか。さてどうする——。

 と考えていると、横からすっと手が伸び、持っていたスマホを認証部にかざした。明らかに異常な電子音と共にグリーンのライトが点灯。そして解錠の音が響く。

「えへへ」
 隣を見ると、クレがはにかんだように笑っている。
「どう? これあたしの自作だよ。物理錠じゃなくてよかったね藤井さん」

「別に。物理錠ならもっと簡単に開いてた」
 負け惜しみみたいなことを言って、僕は扉を押し開ける。

 

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>>>第1章-15

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