Decentralized Kingdom 第1章 19 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

「……藤井さん、ほんとうのこと言ったらぜったい協力してくれないと思ったし」
「当たり前だろーが!」
 僕は思わず叫ぶ。

「なんでお前の家族のよくわかんない揉め事に僕が巻き込まれなきゃいけないんだよ! つーか、あんたもあんただよ!」
 僕は次いで呉槭樹にも叫ぶ。
「こんなことでなに市街警備のドローン娘に差し向けてんだよ! 紛らわしいな!」

「なにを言っているんだ」
 女傑はとんでもないとでも言いたげな顔で言う。

「警備ドローンはもっと気軽に利用してくれていいんだぞ。みらい平は市街警備の利用率が全国平均よりもだいぶ低い。治安がいいならいいが、犯罪に対し泣き寝入りするような地域性では困るんだ。なによりせっかくカイドウと契約してるのにもったいないじゃないか。わざわざ権利保護のロイヤーAIサービスまで付けたのに……そうだ、今試しに使ってみるか?」

「いりません!」
 呉槭樹は僕の言うことに構わず、自身のスマホでなんらかの操作をした。すると警備ドローンのうち二体が僕たちの側に移動し、被疑者の法的権利を合成音声で主張し始める。負けじと他のドローンたちが被害額やら過去の判例やらで応戦し始め、なんだかもうよくわからないことになっていた。

「おっと、もうこんな時間か」
 呉槭樹が今気づいたように言う。

「知っていると思うが、今日は池袋で講演会があってな」
「お母さん、でもあと四十分しかないよ」

「大丈夫だ。ドローンを呼んでいる。約八万九千四百Bitsで着く。つまり二十分だな」
 と言ったかと思えば、バリバリという重低音が外から聞こえてきた。たぶん大型の輸送用ドローン。屋上の発着場にでも停まるんだろう。

 出るつもりだったのかよ、講演会。いろいろと破天荒な人だ。
「そろそろ行かなければ。ヨシオ、今日は帰るんだぞ」
「はぁい」
 そして、女傑は去って行った。

 ドローンたちも言い合いをやめてそそくさと退室していく。まるでコントだった。
 ぽつんと残されたのは、僕とクレの二人。
 今までのはいったいなんだったんだ、僕の苦労は……。

「昨日と今日は僕の人生で最も無駄な二日間だった」
「あ、あはは……」

「そうだ、藤井湊君」
 呉槭樹がいきなり扉の向こうから顔を出し、僕はびっくりして固まる。

「君、地域会議で働く気はないか?」
「え? えっとそれは……事務員として就職しないか、ってことですか?」
「違う。私の下でその力を振るわないかという意味だ」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
 議長直属の部下ともなれば、地域会議の運営に深く関わることになる。恐らくこれは、将来議員になる気はないかと言われているに等しい。さらにはその先、イケハヤ経済圏そのものへの足がかりにもなり得る。

「なんで……僕、イケハヤ率も低いですし」
「あんな気色悪い指標はどうでもいい」
 女傑はにやりと笑う。

「気づいていないのか? 君は昨日今日で十分に有能さを示した。もし君に悪意があったなら、地域会議の運営がおびやかされてもおかしくなかっただろう。無論私の評価もだ。ヒューマンセキュリティの問題点も洗い出せた。君の過去の経歴も——なかなかおもしろい。こんな人材をなぜ放っておくと思う? なんなら議席をやってもいいぞ」

「……いいんですか、いくら議長だからってそんな強権発動して。反発あるんじゃ」
「個人が王のように振る舞えるのが評価経済と消費者主義のいいところじゃないか。無論君の登用が間違いだったなら、私の評価は毀損される。イケハヤ経済圏の地域会議が見放されれば、別の王国が新たな地域会議を立ち上げてしまうだろう。そのリスクを負って誘っているんだよ」

 呉槭樹は、自信に満ちた態度でそう言い切った。
 典型的な高評価者ハイバリュアーの振る舞い。ブロックチェーン黎明期から活動しているだけあって、彼女は生粋の評価主義者バリュアリスト消費者主義者カスタマリストだった。

「あと二分で決めてくれ」
 時間が迫っているのか、呉槭樹がスマホを見て言う。
 きっと、こんな機会は二度とないだろう。
 僕は————、

「……お断りします」
「そうか。残念だ」
 女傑は残念さなど欠片もない声で言って、スマホをしまった。

「その選択も理解できる。君にはまだまだ時間という資産が残っているからな。だが覚えておいてくれ。私も実力だけで今の評価を得たわけではない。幸運な巡り合わせがいくつもあった結果だ。好機を掴むということも忘れるな」
 そう言い残して、呉槭樹は今度こそ去って行った。

 程なくしてドローンの羽音が響き渡り、やがて遠ざかっていく。ここの窓からその影は見えなかった。池袋は反対側だから。

「藤井さん、よかったの?」
 クレが僕の顔を見て言う。
「ちょっともったいなくなかった?」

「……いいんだよ。議員なんてどうせ向いてない」
 本当のところ、なぜ断ったのかは自分でもよくわからない。
 そこまで魅力を感じなかったからか、大きすぎるチャンスに気後れしたからか、それとも————。
 いや、もう終わったことだ。特に後悔もしていない。

「……そう言えばお前、ヨシオっていうんだな。下の名前」
「あれ、言ってなかったっけ? そうだよ。呉由緒クレヨシオです、どうぞよろしく」

 クレがぺこりと頭を下げた。それから、なんだかそわそわとしだす。
「ね、ねえ、あたしの名前、ほんとに聞いたことあったりしない?」

「は?」
「あたし、ちょっとすごいんだよ。いろいろやってるし、メディアでもたまーにだけど取り上げられたりとか……」

 そう言われて、僕は真面目に考えてみる。だけど特に思いあたらない。
「いや、悪いけど知らない……呉姓だったら聞けば印象に残ると思うんだけど」

「あ! そうだクレじゃないよ! あたしお父さんの苗字で活動してるんだ。水無由緒ミズナシヨシオ。最初そうしてたから今も惰性でね」

 水無、ミズナシ……と考えて、僕はふいに思い出す。
「あー……知ってるかも」
「ほんと!?」

「何回か聞いたことある。あれお前だったのかよ。というか昨日もニュースでやってた気がするぞ。なんかプログラミングの世界大会で優勝したとかって」

「そうだよそうそう! 三連覇だよ! 二十二歳以下のやつだけどね! いやぁうれしいなー」
「……ごめん、というかずっと男だと思ってたよ。名前しか知らなかったから」

「あっはははは! よく言われるー!」
 なにがそんなに楽しいのか、クレはずっと笑い続けている。
 見てると、つられて笑いそうになる。
 それがなんとなく腹立たしく、僕はずっと憮然としていた。

 

 

第2章に続く<近日公開>

 


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