Decentralized Kingdom 第2章 4 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

◇アノニマス

クロニックペイン。

あいつは俺をそう呼んだ。

ダークウェブで大物ぶる奴の鼻を明かしてやろうと、マシンに侵入を試みたあの夜。

まんまとハニーポットに誘い込まれ、信じられないような手際で逆ハックをかけられたあの時、あいつは、俺の情報を奪うでもなくメモ帳テキストパッドでこう問いかけてきた。

CPってなんの略だ?wut CP is 4?

CPは、いつも使っていた俺のハンドルネームだった。

自分の苗字、円道Circle Pathの頭文字を取っただけだったが、まさか正直に言うわけにもいかない。動揺しながらも、俺は用意していた答えを打ち返す。

群衆恐怖症Crowd Phobiaだよクソヤロウ』

ウケるlol。クールじゃん』

そこからしばらく、俺はあいつとやり取りをした。

あいつは、どうも俺が思っていたような奴ではないようだった。ダークウェブでの尊大な態度は一種のロールプレイだったのだとすぐに気づいた。俺がやり取りしたあいつはずっと慎重で、思慮深く、フレンドリーながらも、決して腹の底は見せなかった。

俺はあいつと友人になった。

そしてある日。あいつは、俺にその計画を明かした。

『どうだ?』

すぐにできると思った。俺なら。

あいつは得体が知れなかったが、協力してやろうと思った。

あいつの目的は、まさに俺が求めていたものでもあったからだ。

『お前ならそう言ってくれると思った。だがこの先も群衆恐怖症Crowd Phobiaでは困る』

あいつは言った。

『お前は今からクロニックペインだ』

慢性痛Chronic Pain

後で調べてみると、それは20年以上前に存在した巨大ダークマーケット、『シルクロード』運営スタッフのハンドルネームだとわかった。帝王DPRドレッド・パイレート・ロバーツに見限られ、殺害命令まで出された哀れな薬物中毒者。

あいつは今のDPRなのか? いや違うだろう。

“帝国”に関わる人間なのは間違いない。だがおそらくはもっと下の立場だ。そもそも、匿名主義者アノニマス達の仮想国家『DPRCドレッド・パイレート・ロバーツ・キャラバン』の帝王など実在するかも疑わしい。

どうでもよかった。重要なのは、なにが得られるかだ。

それに、俺は慢性痛Chronic Painの名が存外気に入っていた。

円道Circle Pathも、群衆恐怖症Crowd Phobiaも、慢性痛Chronic Painも、俺か彼女を指し示す言葉だったから。

俺は泡状フォームディスプレイを見つめる。

テストは終わりだ。計画はこれから始まる。

『インターネットを巻き戻す』

それがあいつの目的で。

俺の願いで。

おそらく彼女の希望だった。

◆         ◆         ◆

>>>第2章-5

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