Decentralized Kingdom 第2章 7 /著:小鈴危一 /仮想通貨SF小説

◇再開と序章

「あ! 藤井さん久しぶりー」

ひんやりした面会室のアクリル板越しに、由緒がひらひらと手を振った。

僕は拍子抜けして、面会用のパイプ椅子に腰を落とす。

「なんか、元気そうだな」

「逮捕されるなんて初めてだし。意外と快適だよ留置場」

「はあ」

「評価も上がるかも」

「なんでだよ」

「藤井さん知らない? 逮捕されると評価が上がるんだよ。新生ライブドアのおじいちゃんだって若い頃刑務所に入ってたし」

なんだか本当に平気そうだった。少しでも心配して損した気分になる。

「どうでもいいけど、逮捕されたの今日だろ? 面会ってこんなに早くしていいのか?」

「何も問題はない」

僕の後ろに佇む呉槭樹が答える。

「特に権利は認められていないが、違法ではないからな。警察を説得できさえすれば当然可能だ」

僕は由緒の後方に座る婦警の顔に、『怒り』の微表情が浮かんだのを見逃さなかった。

イケハヤ経済圏の重鎮だけあって、やはり呉槭樹は相当な力を持っているらしい。

「あたしの顔メディアに映ってた?」

「ニュースにはさすがに映ってないよ、実名も伏せられてたし。ミズナシヨシオの方は報道されてたから顔写真はネットに出回ってるけど」

「おおー、いいね!」

「いいのかよ。僕だったら寝込みそうだ」

「小心者だね藤井さん。せっかく顔と名前を売れたんだからチャンスと思わないと。晒しなんてしょっちゅうあるからみんなに飽きられる前になにか行動したいよね」

みんな、か。敵に回るかも知れない大衆を相手によくそう言えるなと思った。実際SNSで悪意ある、あるいは歪んだ正義をかざす者たちに注目され、心を閉ざす人間は多い。

表情に『恐れ』の感情はないし、どうやら本心らしい。こいつメンタル強すぎだろ。僕もつい口が軽くなる。

「それにしても大それたことをやったな。ビットコインを攻撃したんだって? ちんけなクラックツール作るくらいじゃやっぱり飽き足らなかったか」

「ちょっ、やめてよねー。またあたしの印象悪くなっちゃうじゃん」

「後ろの婦警さん、すごく話を聞きたそうだったぞ。今眉が上がって目を見開き、上体が少し前のめりになった」

婦警さんの表情が固まり、視線が伏せられた。由緒は他人のいたずらを見る子供の顔をする。

「あはは、あたし藤井さんに尋問される方がいやだなー」

「それで、なんで逮捕されてんだ?」

「えっと、お母さんからはなにか聞いてた?」

「私は警察署に呼んだだけで何も話していないぞ」

「というか僕、今回の事件のこともよく知らないんだよな。来る時にタクシーの中でニュース記事見たくらいで」

「あーそうなんだ」

「詐欺って聞いたけど」

「えーとそれはねー……」

由緒は少し考える仕草をして話し出す。

「ビットコインのシステムで二重支払いを起こして、本来支払われるはずだったBTCを騙し取った、っていうのが警察の言いがかり」

「二重支払いって、具体的には?」

「誰かが十億円分のビットコインを別の通貨に換えたんだけど、それとは別に、同額を違うアドレスに送ってたみたいなの。例の採掘者がそっちのトランザクションを取り込んだブロックを伸ばしまくって放流したおかげで、本来のチェーンが破棄されて、最初に支払われた10億円分のビットコインが取引相手の口座から消えたんだって」

「うわ……」


>>>第2章-8

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